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ゲランの名香「夜間飛行」は完璧すぎる樹木調の香りで感動する

    
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ゲランの名香「夜間飛行」は完璧すぎる樹木調の香りで感動する

 

1933年に近代香水の父と呼ばれるジャック・ゲランが創作したゲランの名香「VOL DE NUIT ボル ド ニュイ(夜間飛行)」。

 

ゲランのコンセプトシートによると、香りのタイプはオリエンタル・ウッディノートに分類されています。

ただ、実際にスメリングしてみると深い緑というか、何層にも香りの層が折り重なっているようで、かなり大人の香りがします。おそらく、20代の女性が使うにはちょっと敷居が高いかもしれません。

 

ちなみに、香りのタイプであるオリエンタルノートとは、西洋から見た東洋の神秘をイメージした香調です。動物性の香料を多く使用することから、官能的な香りとも言われています。

東洋の神秘というと、いわゆるお香のような雰囲気を思い起こすかもしれませんが、それは、私たち東洋人が想像する東洋のイメージなのかもしれません。

 

とにかく、香水の世界で、樹木を思わせるようなウッディな香りというのは少ないので、現在入手できる香水としては、極めて貴重な存在だと思っています。

私が最初に購入した香水も(まだ蓋も開けずに10年くらい保存していますが)、この夜間飛行でした。

お店で1時間くらい香りをチェックして、家に帰ってからも、蓋を開けずともほんのり香ってくる重厚で深い香りは、魂が深いところにつれて行かれてしまうような奥深さです。

 

香りのコンセプトは「星の王子様」で有名なサン=テグジュペリの小説

 

 

香りのコンセプトはあの有名な小説家サン=テグジュペリの小説「夜間飛行」です。この小説は。自身のパイロットとしての体験も交えて書いたリアルな短編物語となっています。

 

当時、夜に飛行機を飛ばすことは大変な危険をはらんでいたようで、小説「夜間飛行」の中では、こう表現されています。

 

飛行機が飛ぶ夜空という暗黒の領域を、まるで未開の密林のように恐れていた。
時速200キロの速度に乗員を送り出すこと、それも夜が人知れずはらむ嵐や
もやや物理的所外の中に送り出すことは、戦時の空軍でもなければとうてい容認しがたいとされる挑戦だったのである。

 

確かに、想像してみればわかるような気がします。今から80年前と言えば、日本で言えば昭和初期の頃です。現在ほど町の灯りも少なく、管制塔も整備されていなかったでしょう。

飛行機も2人乗りのプロペラ機で、照明設備もないわけです。ですから、天空と地上の区別がつかないような暗黒の空間を飛んでいるようなものです。

 

どこからが地上なのかわからないから、誘導灯がある飛行場以外では着陸する事すら出来ないのです。そう考えると、暗闇の中を時速200キロで飛ぶ恐怖と言ったらすごかったと思うのです。

 

小説「夜間飛行」は、そんな危険な郵便飛行を、愚直に続ける男たちの物語です。

私たち航空業にとって、夜間運行を行えるかどうかは死活問題なのです。
鉄道便や船便を相手に昼間は速度で優っても、夜が来るたびにそのぶんが帳消しになってしまうのですから。

 

主人公の航空会社社長、リヴィエールは厳格でした。彼の使命はただ一つ、規則的に夜間飛行を継続することでした。

そのために、彼は社員の整備不備やパイロットの到着時刻の遅れには、いっさいの情けを入れずに、理不尽なまでに、厳格に対処していたのです。

 

嵐に巻き込まれて、命からがら郵便物を運んだパイロットにさえ、規定の時刻に遅れたことで精勤手当を剥奪するくらいでした。

「決まりは決まりだ」

リヴィエールは厳格にそう伝えるだけ。

こうした厳格な秩序に従い、夜間の郵便飛行は継続されて行ったのです。

 

この「継続」のために、どれだけ働いたのか。次の言葉でそれがわかります。

「自分がおそろしく重い荷を、腕をかかげて延々と抱え続けてきた気がした。この骨折りには休息も無く希望も無い」

 

このリヴィエールという老いた社長は、ひたすら夜間飛行を続ける為に、昼夜を問わず働いてきたのです。仕事が終わったからといって、温かな家庭が迎えてくれるわけでもなく、飛行機が無事に到着したと思ったら、次の便を見送らなくてはならないという世界。これを延々と40年間続けてきたのです。

 

夜間飛行の香りは魂が引き込まれていくような深さ

香水の「夜間飛行」は、女性向けのパヒュームです。しかし、小説「夜間飛行」は、命がけで郵便物を届ける航空会社の男たちの物語です。

ここから、ジャック・ゲランは、どのような着想を得て、この名香を創ったのでしょうか。

 

「夜間飛行」の香りは深くて何層もの香りの層で覆われています。そして、最初に感じる香り(トップノート)は、さわやかさを押さえ気味にしたフゼアノートのような雰囲気を醸し出ています。

フゼアノートとは、植物のシダを思い起こさせるようなグリーンで爽快な香りで、男性用の香水でよく使われる香りのタイプです。

この小説のどの部分にインスパイアされたのか、また、部分ではなく、あくまで全体の雰囲気からイメージを創っていったのかは定かではありません。

 

ただ、「香りが香りを包んでいる」ように、何層にも渡って香りが重なっているような深い印象は、夜の深い闇を表しているようにも思えます。女性の香水によくあるような華やかさはあまり感じられません。

魂が夜に引き込まれていく。そんな雰囲気をジャック・ゲランはデザインしたのかもしれません。

 

ジャック・ゲラン(1874年-1963年)

 

フランスの香水メーカーであるゲランの3代目調香師です。

クマリンなどの合成香料が次々に開発される中で、その調合法を確立し、「MITSUKO」や「シャリマー」「夜間飛行」などの香水を創作し成功をおさめたことから、「近代香水の父」と呼ばれています。

合成香料が開発されるまでは、香水は天然香料のみで創られていて、上流階級のみの贅沢品でした。

天然香料のみで創られた香水は香料も高価でした。複雑な香りがしますが、持続せずに、はかなく拡散してしまうという性質を持っています。

そこに、安価で大量生産できる香料が開発されたことで、香水は一気に大衆社会に浸透していくことになります。

そうした中、大成功をおさめたのが、ジャック・ゲランでした。

 

代表作

L’Heure Bleue(1912年/ルール・ブルー;青い時)

Mitsouko(1919年/ミツコ)

Shalimar(1925年/シャリマー)

Vol de Nuit(1933年/ボル・ドュ・ニュイ;夜間飛行)

ジャックゲランが創作したこれらの香水は、100年以上たった今でも販売されています。

 

ゲラン家は世襲で調香師を育てており、孫の4代目調香師のジャン=ポール・ゲランには3000種類に及ぶ香料を嗅ぎ分ける訓練を行い厳しく指導したと言われます。

また、香水のレシピは、跡を継ぐ調香師に受け継がれています。ゲランの金庫に厳重に保管され、ごく限られた人間しか見ることができないとのことです。

 

ゲランの香水は、ゲルリナーデ (Guerlinade) と呼ばれる手法を受け継いでおり、どの香水も「何となくゲランっぽい」と感じるのは、香りの底辺に流れる伝統の技が脈々と伝わっているからなのですね。

 

夜間飛行の香料成分

 

夜間飛行の香水に使われた香料成分について示しておきます。当然のことながら、香料の配合割合などは極秘中の極秘なので、わかるはずもありません。公表されている香料について、まとめておきます。

 

アルコール、水、香料
リナロール
リモネン、
ALPHA-ISOMETHYLIONONE
COUMARIN
CINNAMYL ALCOHOL
GERANIOL
CITRONELLOL
BENZYL BENZOATE
EVERNIAFURFRACEA(TREEMOSS)EXTRACT
BHT
FARNESOL
EUGENOL
CITRAL
BENZYL ALCOHOL
CINNAMAL
BENZYL SALICYLATE

 

まとめ

 

名香「夜間飛行」のストーリーは、いかがでしたでしょうか。

「星の王子様」で有名なサン=テグジュペリの小説「夜間飛行」を丸ごとデザインのコンセプトにするとは、香水イメージには限界がないのだと考えさせられます。

香りを作るのに、調香師は着想から製品化まで2年以上もかけて作ることもあるそうです。香りのデザインというのは本当に奥深いものなのだと感じます。

 

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