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オスマンタス(金木犀)の香りは、なぜ郷愁の思い出が引き起こされるのか/キンモクセイ

    
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オスマンタス(金木犀)の香りは、なぜ郷愁の思い出が引き起こされるのか/キ...

秋になると香ってくる花。金木犀(キンモクセイ)は秋の代表的な香りでしょう。

風に乗って遠くからも香りを感じることができるので、多くの人がその香りがどんなものかを知っています。

「甘く穏やかで、なんだかノスタルジーを感じさせるような夕日のような香り」
きっと、そんなふうに感じる方が多いのではないでしょうか。

それにしても、どうして、金木犀の香りにノスタルジーを感じてしまうのでしょうか。実際に金木犀の香りであるキンモク精に聞いてみましょう。

オスマンタス(金木犀)の香りの特徴

金木犀の香りはフレグランスの世界では「オスマンタス(Osmanthus)」というけれど、どんな香りなの?

あまさを強く感じる花の香りで穏やかで落ち着いているけれど軽い香り、と言われます。
「なつかしさを感じる香り」と表現される方も多いです。

やっぱり香りを言葉で表すのは難しいね。金木犀の香りはよく知っているから、自分はわかるけれど。ジャスミンやローズの香りも甘いよね。だから、君の言葉でキンモクセイだとはすぐにわからないかも。
でも、「懐かしさを感じる香り」ということでは、金木犀を思い浮かべる人は多いかもしれない。

そうですね。金木犀の香りは、懐かしさ、ノスタルジー、郷愁…といったイメージと結びつける方は多いみたいです。

キンモクセイの香りに「懐かしさ」を感じることはあるけれど、それはなぜだろう??

日本人にとって金木犀の香りが広く知られているということが、まず挙げられます。

「懐かしさ」とは、昔のことを思い出して、そのイメージが楽しく、ついつい自分を引きつけてしまうような魅力を感じることです。

金木犀の香りはそのような「なつかしい記憶」と結びついた香りと言えます。
ということは、幼少期の頃から、金木犀の香りというのがそこらじゅうにあって身近だからこそ、懐かしさを感じるわけです。

子どもの頃によく嗅いだ香り、それが金木犀で、その香りに触れると過去にフラッシュバックするということです。

「懐かしさ」の秘密

金木犀の香りを子どもの頃から知っている有名なものということはわかるけれど、子どもの頃にたくさんある匂いなんて、もっと他にもあると思うけれどな。カレーの香り、とか!?

そうですね。金木犀に限らず、香りというのは、他にもたくさんありますし、「広く知られた香り」というだけでは、懐かしさは感じられないかもしれません。

でも、「広く知られた香り」というのが、前提なのです。
その人にとってのなつかしい香りというのは、他にもいろいろあると思いますが、多くの人が「なつかしい」と感じるには、それなりのパイの大きさが必要なのです。

そして、その香りが定期的にやってくる周期性を持つこと。

金木犀の香りは、秋になると、どこからともなく香ってきます。
ジャスミンやローズのように、花の近くに顔を近づけないと香らないということはないのです。

遠くにあるキンモクセイの花から放たれた香りは、遠隔でも届くという、非常に持続性があり拡散性のある香りです。

その香りは、毎年、秋になると、ふいに出会う香りとなります。これが周期性です。

また、昭和の平屋建ての家屋では、汲み取り式のトイレも多かったことから、その匂い消し(マスキング)のために、トイレの周辺に金木犀を植えていた家庭も多かったでしょう。

金木犀がトイレの香りとして連想されるのも、そうした背景があるのかもしれません。

これは、秋になると、毎回トイレにいくたびに、金木犀の香りが強く香るわけです。
さらに短時間に周期が巡ってくるので、これも周期性です。

カレーライスも、たとえば毎週火曜日に食べていたという記憶があるのであれば、カレーの匂いも「なつかしい」と感じる人はいるかもしれません。

キンモクセイの香りは、よく知られた香りで周期性がある、ということはわかったけれど、それだけでノスタルジーを感じる香りになるのだろうか?

金木犀の香りがノスタルジーを感じるもう一つの理由は、その香りそのものにあります。

広島大学の分析によると、キンモクセイの香り成分は、γ-デカラクトン、リナロール、リナロールオキシド、イオノン、などとのことです。

γ-デカラクトンは、桃や杏を特徴づけるようなフルーティな香りで、イオノンはスミレの花の香りにも含まれる芳香物質で、比較的遠くまで香りを伝える拡散性があるとされています。

そして、リナロールは、ラベンダーや鈴蘭(ミュゲ)に多く含まれる芳香成分で、リラックス効果があるとされています。

このフルーティで、フラワリー、そして、落ち着いた香りは、親しみやすく、受け入れられやすい香りでもあります。

そうした香りが幼少期の頃から周期的に、香ってくるのです。

それが、幼い頃の記憶に秋の香りとして定着されるのです。

それにしても、だからと言ってノスタルジーに結びつくとは言えないと思うけどな。

秋の香りとして刷り込まれている、というのも重要な要素です。

暑かった夏が終わり、季節のエネルギーは陽から陰への向かうことが鮮明となります。

日も短くなり、暗くなる時間が早くなります。

あのエネルギッシュな夏が終わり、季節も落ち着いた秋に向かう。

そうした秋の入り口に香るというのがポイントです。

夏休みの楽しい行事や旅行、遊び。

その記憶が思い出に変わっていく季節が秋、なのです。

その秋に香る金木犀。

そこに動から静への流れが、思い出の形成というプロセスと相まって、ノスタルジーを生むわけです。

ほう、香るタイミングがポイントということだね

そうです。この絶妙なタイミングに毎年、どこからともなく香ってくる金木犀。

これがノスタルジーや郷愁、懐かしさを思い起こさせる正体です。

オスマンタス(金木犀)の香りの表現

香りの世界では、金木犀の香りを「オスマンタス(Osmanthus)」と言います。
これは、香料文化が欧米から入ってきたものなので、英語やフランス語で表現することが基本となっているからです。

そのオスマンタスは、
「甘く穏やかで、フルーティ、そしてノスタルジーを感じさせるような香り」
と説明すると一般的なものになるでしょう。

でも、香りの説明を言葉で行うことは極めて難しく、自分自身に伝えるための定義が必要です。

私の場合には、
「鼻腔の上部に流れるような細くてオレンジ色の果物のような夕日の香り」

これが私にとってのオスマンタスの香りの説明です。

この言葉から香りの様子を記憶から引き出しています。

私自身もオスマンタスの香りは郷愁を感じざるを得ません。

夏が終わってしまった、という寂しさと共に、強制的に秋を感じるしかない香りである金木犀の香りが流れてくるからです。

でも、行って欲しくない夏が終わってしまったときの寂しさを感じるということは、幼少期の頃の夏は、きっと幸せだったのだと思います。

季節が終わるごとに寂しさを感じるような生き方が幸せな日々を過ごすことなのかもしれません。

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